派遣法改正で派遣の働き方はどう変わる? 1986年の施行から2020年の「同一労働同一賃金」までの改正ポイント

派遣法改正で派遣の働き方はどう変わる? 1986年の施行から2020年の「同一労働同一賃金」までの改正ポイント

労働者派遣法は、派遣労働者を保護する目的で作られた法律で、時代の流れや社会の情勢に合わせ、これまで何度も改正されてきました。20204月には、「働き方改革」の一環として改正労働者派遣法が施行されましたが、派遣法をよく知らないという人や、改正によってどのような点が変更になったのかを知らないという人も少なくありません。今回の記事では、派遣法の概要と改正ポイントを解説します。派遣スタッフとして働いている人、これから働きたいと考えている人は、しっかり理解し、安心して働けるようにしましょう。

労働者派遣法とは?

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労働者派遣法は、派遣法ともいわれていますが、正しくは「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といいます。その名の通り、派遣スタッフの権利を守り、就業条件や賃金、福利厚生などについて定めた法律です。派遣スタッフは、1回の契約ごと   に賃金や契約期間などが決められているので、働き方や収入に不安を抱いている人もいます。労働者派遣法は、このような派遣スタッフの雇用を安定させるため、1986年に施行されました。

時代の移り変わりとともに世の中の情勢も変わり、派遣スタッフが働く環境の改善を図るため、労働者派遣法は、その後、数回にわたり改正されています。昨今では、2020年4月に、一億総活躍社会の実現を目指す「働き方改革」の一環として、改正労働者派遣法が施行  されました。今回の改正では、派遣スタッフと、派遣先の労働者との不合理な格差を改善するいわゆる「同一労働同一賃金」が定められました。

《ポイント》
労働者派遣法は、派遣スタッフの権利を守り、就業条件や賃金、福利厚生などについて定めた法律です。2020年の改正では、派遣スタッフと、派遣先の労働者との不合理な格差を改善するいわゆる「同一労働同一賃金」が定められました。

2020年の改正労働者派遣法のポイントは「同一労働同一賃金」

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2020年4月から施行された改正労働者派遣法は、いわゆる「同一労働同一賃金」の実現を主な目的としています。「同一労働同一賃金」という言葉はよく耳にするものの、あまり理解できていないという人もいるかもしれません。「同一労働同一賃金」とは、ひとことでいえば、正社員と比較して、派遣スタッフ、契約社員、パート社員が、不合理な待遇差を設けることを禁止するルールです。次に、詳しく見ていきましょう。

派遣スタッフにおける同一労働同一賃金とは

これまで派遣スタッフの待遇は、派遣元が決めていました。そのため、「同じ仕事をしているのに賃金が違う」といった、派遣スタッフと派遣先の社員との待遇差が問題となっていました。そこで、2020年の改正労働者派遣法では、派遣スタッフと同じ仕事をする労働者の待遇を基準に、派遣スタッフの待遇を決定することが、派遣元に義務付けられました。これが、いわゆる派遣スタッフにおける「同一労働同一賃金」です。

同一労働同一賃金の待遇の決め方

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同一労働同一賃金の待遇の決め方には、「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の2つの方式があります。どちらの方式を採用しているかは派遣元によって異なりますので、派遣元に確認する必要があります。

■労使協定方式
労使協定方式

派遣会社と派遣スタッフ(労働組合や過半数労働者)が労使協定という話し合いで、同じ地域で同じ仕事(職種)をする、いわゆる正社員の平均と同等以上の賃金に定める方式です。
例えば、希望する派遣先が、東京都内の事務職の場合、派遣先の正社員の賃金ではなく、「東京都内の事務職の平均賃金」が考慮されます。そのため、派遣先企業が変わっても賃金の変動がないため、安定した給与が見込めます。

■派遣先均等・均衡方式
派遣先均等・均衡方式

派遣元は、派遣スタッフと同じ仕事をする社員の待遇をもとに、均等待遇と均衡待遇が保障されるよう、派遣スタッフの待遇を決める方式です。

均等待遇…同じ仕事をする場合は、同じ待遇となる
均衡待遇…経験などを理由に待遇差を設ける場合、不合理な待遇差にならないようにする

この方式では、派遣先が変わるたびに待遇を決める基準が変わるため、収入も大きく変動する可能性があります。

参考:厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」

通勤交通費も同一労働同一賃金の対象に

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派遣スタッフの通勤交通費は、これまでは時給に勘案されているケースが多く、通勤交通費の名目では支給されていませんでした。そのため、派遣の仕事を探す際には、通勤交通費を考慮して選ぶ必要がありました。同一労働同一賃金では、同じ仕事をしているにも関わらず、派遣先の正社員にだけ通勤交通費が支給され、派遣スタッフには支給されない場合には、派遣スタッフにも通勤交通費を支給するよう見直しが求められます。

労使協定方式の場合  、派遣先の正社員に通勤交通費が支給されているかどうかは関係なく、派遣会社は派遣スタッフに対し、「一般の労働者の1時間当たりに相当する額(72円/時)」または「実費額」と同等以上が支給されます。通勤交通費に関するルールも派遣会社によって異なるため、確認しておきましょう。

派遣先均等・均衡方式の場合、派遣先企業の正社員と職務内容が同じ派遣スタッフは、派遣先企業と均等な待遇を受けることになります。そのため、派遣先の正社員に通勤交通費が支給されていない場合は、派遣スタッフにも通勤交通費は支給されないことになります。

派遣先から待遇情報が提供される

正社員と派遣スタッフとの間での不合理な待遇差が生じないよう、派遣先は派遣会社に対し、派遣スタッフと同じ仕事をする社員の待遇を派遣会社に提供する義務があります。派遣先から派遣会社に、この必要な情報の提供がない時は労働者派遣契約を締結してはならないことも、2020年の派遣法改正で新たに定められました。

労使協定方式の場合、給与や各種手当などは派遣先の社員の待遇とは関係ないため、派遣先からは教育訓練や福利厚生の待遇情報が提供されます。派遣先が、派遣スタッフと同じ仕事をする社員に対して、その仕事に必要なセミナーや講習を実施していたり、休憩室や更衣室、社員食堂などを利用させていたりする場合、派遣スタッフも同様の待遇を受けられるようになります。

派遣会社は派遣スタッフに、待遇について説明する義務がある

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■派遣会社に雇用される時
派遣会社に雇用される時には、昇給・退職手当・賞与の有無、労使協定の対象となる派遣スタッフかどうか、派遣先均等・均衡方式もしくは労使協定方式でどのような待遇となるかなどについて説明されます。これは派遣スタッフが不合理な待遇差を感じることのないよう、待遇に関する説明義務を強化したものです。具体的には、次の項目になります。チェックしておきましょう。

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・労使協定の対象となる派遣社員であるか否か
(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期、派遣社員から申出を受けた苦情の処理に関する事項)

■派遣先に派遣される時
派遣先に派遣される時には、派遣先で同じ仕事をする社員の待遇(労使協定方式の場合は教育訓練や福利厚生の待遇のみ)をふまえて、職務内容や能力、経験が賃金にどのように反映されるかといった待遇について説明されます。具体的には、次の項目になります。こちらもチェックしておきましょう。

・「派遣先均等・均衡方式」の場合、どのような措置を講ずるか
・「労使協定方式」の場合、どのような措置を講ずるか
・これまでの経験、提示されている仕事内容、成果、意欲、能力、就業の実態など、どのように勘案して賃金を決定するのか

派遣スタッフから説明を求められた場合、派遣会社は説明する義務がある

また、派遣スタッフが、派遣会社に対して待遇差があるかないか、待遇差の内容、待遇差を設けた理由などについて知りたい場合は、説明を受けることができます。例えば、派遣先均等・均衡方式の場合に、就業後に比較対象となる社員との間に待遇差を感じた場合においても説明を求めたら、派遣会社は説明する義務があります。説明は、派遣スタッフがしっかり理解できるよう、わかりやすい資料や口頭ですることになっています。

参考:厚生労働省「平成30年 労働者派遣法改正の概要(同一労働同一賃金)」

《ポイント》
「同一労働同一賃金」とは、正社員と比較して、派遣スタッフや契約社員、パート社員が、不合理な待遇差を設けることを禁止するルールで、待遇の決め方には、「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の2つの方式があります。どちらの方式を採用しているかは派遣元によって異なりますので、派遣元に確認する必要があります。
また、派遣先は派遣会社に対し、派遣スタッフと同じ仕事をする社員の待遇を派遣会社に提供する義務があります。

2020年だけではない!派遣法改正の歴史

派遣法改正で派遣の働き方はどう変わる? 1986年の施行から2020年の「同一労働同一賃金」までの改正ポイント_3

これまでも何度となく改正されてきた労働者派遣法。2000年の紹介予定派遣の解禁や、2015年の労働者派遣法の改正で設けられた3年ルールなど、どのように変わってきたのかを簡単に振り返ってみましょう。

■1986年:労働者派遣法施行
労働者派遣法によって、初めて派遣事業が正式に許可されました。当初は、派遣期間は最長1年で、派遣スタッフの業務はソフトウェア開発や通訳、秘書など、一部の特筆すべき技能を持つ13業務に限定されていました。同年、機械設計や放送番組等の制作など3業務が加わり、全部で16業務に拡大しました。

■1996年:派遣対象業務の拡大
無許可の派遣会社から派遣スタッフを受け入れた派遣先が、勧告を受けたり、社名が公表されたりすることが制度化されました。また、派遣スタッフの業務に、書籍等の制作・編集や商品・広告等のデザイン、アナウンサー、テレマーケティング営業などが加わり、16業務から26業務に拡大しました。

■1999年:派遣対象業務が原則自由化
派遣事業の規制緩和が進み、派遣の対象業務が原則自由化されました。それまでは、派遣労働を認める業務だけを指定していた「ポジティブリスト方式」から、派遣労働を禁止する業務だけを指定する「ネガティブリスト方式」に変更されました。一方で、港湾運輸、建設、警備、医療関係、物の製造、弁護士、税理士、社労士などは、派遣の禁止業務となりました。
また、派遣期間が、これまでの26業務については最長3年に延長され、新しく派遣の対象となった業務は最長1年となりました。

■2000年:紹介予定派遣を解禁
派遣期間が終了した時点で派遣労働者が、「この会社で継続して働きたい」と希望し、派遣先企業も「この人に継続して働いてもらいたい」と希望した場合のみ直接雇用へ切り替えられる「紹介予定派遣」が解禁されました。
派遣スタッフと派遣先が、お互いに見極めるための期間があることで、直接雇用へ切り替えた際のミスマッチを防ぐことが期待されました。

■2004年:派遣期間を最長3年に延長
派遣期間を最長3年に延長
派遣期間を最長3年に延長
以前からニーズの高かった物の製造現場への派遣が、派遣期間を最長1年とした上で解禁となりました(2007年には最長3年に延長)。また、派遣期間が、これまでの26業務については最長3年から無制限に、1999年に自由化された新たな業務については最長1年から最長3年となりました。

■2012年:労働者派遣法の改正
法律の正式名称が、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に変わり、法律の目的にも、派遣労働者の保護のための法律であることが明記されました。
30日以内の日雇い派遣が禁止となったり、賃金や待遇について派遣会社から説明されるようになったり、派遣先で同じ仕事をする社員の賃金水準などに配慮した待遇になったりなど、派遣スタッフの働く環境を守るための規制強化が進められました。

■2015年:労働者派遣法の改正
派遣スタッフの雇用の安定やキャリアアップ、派遣労働者の均衡待遇の強化など、大きな改正となりました。
派遣スタッフの正社員化を含むキャリアアップや雇用の継続を後押しするため、派遣会社は、派遣スタッフに対して計画的な教育訓練や、希望者へのキャリアコンサルティングの実施、派遣期間終了時に派遣先への直接雇用の依頼や新たな派遣先の提供などをすることが義務付けられました。

また、派遣期間について、これまでは26業務は無期限、その他の業務は最長3年となっていましたが、このルールが廃止され、新たに「3年ルール」が設けられました。3年ルールには、事業所単位の期間制限と、個人単位の期間制限の2つがあります。

[3年ルール]
1.事業所単位の期間制限…派遣先の同一の事業所における派遣スタッフの受け入れ期間が最長3年となりました。それを超えて受け入れるためには、過半数労働組合などからの意見聴取が必要になります。

2.個人単位の期間制限…派遣スタッフが、同じ課や部など同一の組織で働ける期間が最長3年となりました。

まとめ

同一労働同一賃金のルールを理解して、安心して働きましょう

労働者派遣法の歴史は、派遣事業の規制緩和と同時に、派遣スタッフが働きやすい環境作りの歴史ともいえます。2020年からスタートしたいわゆる同一労働同一賃金の背景にも、こうした改善の積み重ねがあることが理解できるでしょう。
また、同一労働同一賃金について、背景を含めて内容やポイントを把握することは、派遣会社から待遇の説明を受けたり、自分に合った待遇を選んだりする時の大きな判断基準になります。今後も、労働者派遣法の動向もチェックして、安心して働くための知識をどんどん増やしていきましょう。

ライター:山本淳(やまもと・じゅん):ライター/フリー記者(政治・経済)
早稲田大学中退後、テレビのニュース番組やネットメディアの記者を経験しフリーに。記者歴15年。一次情報をもとにした正確性と、専門家や当事者へのヒアリングをもとにした現場感をモットーに、記事を執筆。

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